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一粒の種からはじまった生地づくり

わたしたち三陽商会は、サステナブルでエシカルな社会を目指す「EARTH TO WEAR」を通じ、さまざまな活動を行っています。栃木県「渡良瀬エコビレッジ」の和綿栽培づくりもそのひとつ。水や農薬、化学肥料の使用量を削減して土壌の保全や生態系に配慮したり、生産者の労働環境を改善することが求められている綿の栽培について、サステナブルな栽培方法で綿づくりを実体験させていただくことで多くの気づきをいただきました。そして今回は、その綿を使いオリジナルの生地づくりを行ったレポートをご紹介できたらと思います。

オリジナルの生地づくりに挑戦

プリント工場視察

生地づくりに欠かせない染色にご協力いただいたのは、京都でプリント工場を営む株式会社美研繊維さんです。わたしたちの生地をプリントしていただく場にお邪魔させていただき、ものづくりへのこだわりや、わたしたちメーカーに期待することなどお話をお伺いしました。

生地にプリントをほどこす手法を捺染というそうです。株式会社美研繊維さんではオリジナルの柄を開発するケースと、メーカーに依頼された柄をプリントするケースがあるそうですが、いずれも捺染のプロフェッショナルとして培ってきた専門性を活かした細やかな対応を基本としているそうです。

捺染の方式には二種類あるといいます。ひとつはアナログ方式。版下づくりからはじまり、複雑な工程を要する方式です。もうひとつは、自由なデザイン表現が可能なうえに、低コストで多品種少量、短納期の生産にも対応できるインクジェットデジタル捺染方式です。海外と比べて日本ではインクジェットデジタル捺染方式を採用しているプリント会社さんは多くないそうですが、美研繊維さんはどちらにも対応し、ニーズにあわせて使い分けているそうです。インクジェットデジタル捺染方式を使ったオリジナル商品の開発にも意欲的でいらっしゃいます。

環境負荷を低減するインクジェットデジタル捺染方式

今回、わたしたちがお願いしたのもインクジェットデジタル捺染方式です。理由は、環境負荷を低減したいとの考えから。1着の服ができるまでには、染料や大量の水の使用など、環境に大きな負荷がかかります。それに対しインクジェットデジタル捺染方式は、染料や水の使用を最小限にとどめることができるのです。それでいて、色数の制限がなく、ブレもない。環境に優しいだけでなく、デザイナーのこだわりを再現性高く表現できる、まさに次世代のプリント技術といえます。

工場に入って驚いたのが、プリント機の迫力。大きなプリント機が何台も並ぶ光景は圧巻でした。プリント機はデジタル制御されているので、限られたスタッフさんでも同時に扱うことができるそうです。

砂時計をモチーフにしたデザイン

こちらが、わたしたちの生地。一粒の種だった和綿から素敵な生地が生まれた喜びを感じます。

デザインは東京藝術大学の松下計先生にお願いしました。持続可能なものづくりを考える「EARTH TO WEAR」を象徴するモチーフとして、砂時計がモチーフ。このデザイン画を専用のソフトで読み込み、インクジェットデジタル捺染でプリントしてゆくのですが、本当に発色もよく、ブレもありません。

信頼できるパートナーさんとサステナブルなものづくりを

お話をお聞きする中で印象的だったのは、オーダー側のイメージと刷り上がりが少しでも違うと受け取ってもらえず、支払いがされないケースもあるということ。一緒に持続可能な社会をつくるパートナーとして、そうした関係は是正されなければならないと感じました。

そして、株式会社美研繊維さんが、「エコテックス規格100」の認証企業であること。

有害な物質による人や地球への影響をなくすことを目的に、繊維の全加工段階における原料、半製品、最終製品に適用される世界的な試験・認証システムを取得されています。日本ではまだまだ知られていませんが、暮らしの中にはエコテックスラベルがついている製品も少しずつ増えてきました。わたしたちがパートナーを選ぶ際にも、こうした指標を意識しながら、業界の意識を高めていけたらと思います。

今回の取材で、ものづくりの工程にはたくさんの方が関わってくださっていることに改めて気づかされました。小さな端切れでも、あますところなく、大切に使わせていただかなければと感じました。同時に、わたしたちは生活者のみなさんに、一着の服の背景にあるものを伝えてゆかなければならないと感じます。そうした積み重ねが、一着の服を大切に着ることにもつながります。「EARTH TO WEAR」の活動が、サステナブルでエシカルな社会づくりの輪を広めてゆく場となればと思っています。